現役MAミキサーがこっそり教えるテレビ業界のあれこれ
どうも。
MAミキサーの小木曽です。
いつもお世話になっている皆様、おはようございます。お疲れ様です。
これからお世話になるかもしれない皆様、小木曽(おぎそ)です。よろしくお願い致します。
さて、以前のブログで、弊社ミキサーの馬場がMA業務について触れていたのですが。
(2016年7月28日のブログ参照)
フジロックに浮かれていたのか、はたまた暑さにやられていたのか、ふわっとした説明ばかり。
MIXについての説明もなかったので、今一度MAについて語らせていただきます。
そしてこのブログを見ている、MAを職業にしたいと考えているそこの皆様!!
……皆様?
皆々様〜!
………
………
………というわけで、ここを見てくれているであろう未来のミキサー様にMAの魅力を伝えていけたらと思います。
そして
「MAって正直何してるかわからない〜」
とか
「整音整音うるせぇんだよ!」
とか
「そんなにOMFが好きならOMFと付き合えば?」
なんてことを密かに思っているんだけれども、言い出せるわけもなく…
という方々にも届けたい想いがあります。
もちろん、MAの全てをわかっているというMAマスターの方々もよければお付き合いください。
多少なりとも新しい発見があるかもしれませんよ!
お天気キャスターの 木原実さん も出てきますよ〜!
ということで…
テレビ番組において最重要なものは 「音」 であるっ!
…はい。
いきなり編集の方を敵にまわすような発言をしてしまいましたが、別にMAが偉いとかいう話ではございません。
主観ではありますが、きちんと理由があります。
「テレビ番組において」という前置きがありますね。
そう、あくまでテレビ番組におけるMA作業はかなり重要であるよと言っておるのです。
昨今のテレビ離れに伴い、いや実はずいぶんと昔からテレビは何かをしながら見るものになっています。
家事をしながら、食事をしながら、家族でおしゃべりしながら、
なんならスマホでゲームをしながら…
もちろんきちんと正座をして、一切の雑念なく番組を見ているという方もおられるとは思いますが、少数派ではないでしょうか。
生活の中でただただ流れているだけ。
それがテレビの現状かもしれません。
しかし、これが例えば映画館などでは一般的に逆になります。
あくまでその作品を 「見る=観る」 というところに主眼がおかれます。
その作品を観るためにわざわざお金を払って映画館まできているわけですから当然といえば当然ですが。
つまりテレビは映画とは違い、何かをしながら「見て」いることが多いため 、どうしても画から心が離れる瞬間があるのです。
それではいけない。せっかく作ったこの作品、どうしても皆様に見ていただきたい!
どうすればいい?
そこで 音 です。
音で視聴者の顔(心)をテレビ画面に戻すのです。
色々な方法があります。
・単純に音を大きくする(しゃべり、音楽など)
・流行っている音楽を流す
・逆に奇抜な音楽を付ける
・無音を作る(音楽のカットアウトもこれに近い)
・笑いを足す(賛否両論ありますが)
などなど。
もちろんこれは制作さんや音効さんのイメージによるものが大きいのですが、
これをより効果的に聴かせるという技術を提供すべく、私たちMAミキサーがいます。
作品に関わってきた全ての人たちの想いをフェーダーに乗せて指先を動かすだけの簡単なお仕事です。
スマホに向いたその顔をテレビに戻すために
ウットリと向き合った恋人たちの顔をなんとしても引き離すために
私たちは日々暗躍しているといっても過言ではありません。(主観です)
そして、泣いてるあのコを笑わせたり、人前で強がるアイツをホロリとさせたり。
誰かの心を動かしたい
ザ・カラーズはそんな皆様をお待ちしております!
さてさて、そんな感動的作業の裏にはもちろん様々な苦労があります。
そのひとつ、整音については、アバンで出てきたミキサー馬場氏が、弊社ブログ内でこう説明してくれています。
カメラで録ってきた音をTVで放送出来るように
聴きやすく音量等を整えること。
その通りですね。
ではなぜ必要か。
個人的には、ストーリーを視聴者に伝える上で、余計なもの(ノイズ、聴き取りにくい音など)は取り除いておきたいというところでしょうか。
ただ必ずしも雑音が悪いものではないというのが音の面白いところでもあるのですが…
何はともあれ、心を動かす第一歩。それが整音です。
その重要性を以下の例で考えてみましょう。
例1 : トーク系バラエティ番組
場面:女子高生を中心に人気が出始めた若手お笑い芸人。
ベテランリアクション芸人に会心のツッコミを入れようとしている―――
べ「さあ!絶対に押すんだ!」
若「なんでやね○◆×☆▲」
これは若手芸人が噛んだわけではなく、
MCをつとめる女子アナが進行を間違えて次のコーナータイトルを口走ってしまい、会心のツッコミと被ってしまったのです。
女子アナのミスではありますが、整音で女子アナのピンマイクの音声のみを消していれば防げた事故です。
笑いかけていたあのコが、肝心のオチが聴こえにくかったために再び絶望のどん底に、なんて話をよく耳にします。
↓実際にMA作業をする画面で見た音声の波形です。
一番上がベテランの「さあ!絶対に押すんだ!」
真ん中が若手の「なんでやねん!」
一番下は女子アナ「続いてのコーナーは〜」の音声になっています。
若手と女子アナの波形が被っているのがおわかりいただけるでしょうか?
そんなときは…
女子アナ音声を消して若手ツッコミをクリアに!
例2 :感動的なヒューマンドキュメンタリー
場面:30年間離れ離れだった親子が、なんやかんやあって今まさに再会のときを迎えようとしている―――
「お母さーーん!!!」
「娘ーーー一っ!!!」
「はい!そこでふたり強く抱き合って!」
!?!?!?!?
これはディレクターの指示音声を、整音で消していなかったために起きた大事故です。
人前で泣けないアイツが、涙どころか、人間不信に陥った瞬間です。
一周回って面白いですが、これではネットも荒れますね。
まぁ、オンエアに至るまでに一体何故誰も気が付かなかったんだという話ではあるのですが…
ディレクターの声が聞こえてしまった!
そんなときは〜
ノイズ(背景音、風の音など)を使ってバッチリ消してあげましょう!
整音って大切なんですね!
さて。
音楽を取り込む作業そのものについては割愛しますが、
音効さんが付けてきた音楽を画と合わせて聴くことで、ミキサーは自分の中にその作品の世界観を作り上げていきます。
これは最後のMIX作業をする上で非常に大切なことです。
後述します。
そしてMIXに次ぐMA作業の花形がナレーション収録です。
今回は皆様ご存知、お天気キャスターの木原実さんにご協力いただきました!
こんな部屋でナレーションは収録されていきます。
アナブ(アナウンサーブース)、ナレブ(ナレーションブース)なんて言われてます。
まずはナレーション原稿をチェックします。
(どこを読むのか、言葉に間違いはないかなど)
そして映像を見ながら実際に収録をします。
テスト
↓
原稿直し(言い回しに不自然なところはないか、言葉が長すぎる、もしくは短すぎる部分をどうするかなど)
↓
本番
大体どの現場もこのような流れになります。
たった一言の言い回しに悩んだり、ちょっとした番組でも時間のかかる作業です。
ナレーションは番組の命でもあるので、ナレーターさんもスタッフも真剣です。
無事に収録終わり。お疲れ様でした!
弊社のマスコットキャラクター「カラズくん」と記念撮影して頂きました。ありがとうございました!
このあとミキサーは、ナレーション音声データの「上げ下げ」と言われる作業をします。
これは画とナレーションが合うように、収録したナレーションの音声データの位置をずらす作業です。
言葉と言葉の合間を短くしたり長くしたりもします。
MAのデジタル化に伴い、簡単に出来るようになりました。
本番でOK出たのになんでずらすの?という疑問をもつ方も居られるとは思います。
これはナレーター、ディレクター、ミキサーそれぞれの考え方があるので、簡単には言えません。
ただ、収録後に「上げ下げ」がないから良いとか、あるから悪いということではないです。
いつか機会があればもう少し熱い話でもしましょう。
何はともあれ「上げ下げ」をする理由。
音楽を聴かせてからナレーションが聴こえてくるのか、ナレーションのあとに余韻を作るのか作らないのかなどなど。
ナレーションの位置や間(ま)によって、面白さやわかりやすさなども変わります。
番組の内容を見やすく(聞きやすく)しているといった感じでしょうか。
心を動かす ための非常に大切な作業です。
ミキサーが己の世界観を信じて1人でやる場合と、ディレクターと話し合いながらやる場合があります。
さていよいよ佳境です。
テレビ放送で聴きやすいように音質を変えたり、効果音の音量を整えたりします。
色んなことをします。ふわっとしてきました。
それが終わるといよいよMIXです!
ここまで積み上げてきた全ての音のバランスの調整がMIXです。
それぞれのフェーダーに
それぞれの音が割り当てられています
MIXとはつまるところ、作品の最後の仕上げです。
その作品を生かすも殺すもMIX次第といえます。少なくともそういうプライドをもって作業をしているつもりです。
音楽を静かに聴かせるのか、激しく聴かせるのか
ノイズをゆっくり終わらせるのか、突然終わらせるのか
などなど。
もちろんここに至るまでに調整している部分はたくさんあるのですが、究極的にはこのMIX作業の時間で作品の世界観が決まります。
先ほど、音効さんの付けた音楽を聴きながら世界観を作り上げておくことが大切と言ったのはこのためです。
あまり個人的な感情を出し過ぎるのも良くないですが、
なるべく作り手の意図に近いMIXをするためには、自分の中できちんと作品を噛み砕いておく必要があります。
でないと MIXがブレます。
何となく始まって何となく終わってしまいます。
時間に追われる昨今、そんなことが全くないとは、悲しいことに言えませんが、極力作品に全身全霊を捧げたいものです。
ときにはディレクターと言い合いになるかもしれません。
誰もがその作品を愛しているが故です。
こうして作品=番組は出来上がります。
自分のMIXした番組がテレビで流れた瞬間は格別なものがあります。
ちなみに…MIXすることを 混ぜる(まぜる) という人もいます。
この言葉を使うと少し知った風が出せます。
例)
「とりあえずサクッと混ぜちゃいましょう!」
「混ぜたあと編集直しあるんでコピーは大丈夫です!」
「良い感じで混ぜといて!」
少しイラッとする感じもありますが。
皆様も知った風を出して、先輩風を吹かせまくってみてはいかがでしょう。
拝啓
未来のミキサー様。
MAの魅力は伝わったでしょうか。
ふわふわしていなかったでしょうか。
いつの日かお会い出来ることを楽しみにしております。
そしていつもお世話になっている皆様。
また、これからお世話になるかもしれない皆様。
MA室でお待ちしております。
敬具