現役MAミキサーがざっくり教える人生の泳ぎ方あれこれ

プシュッ!


深夜のリビングに歓喜の声が上がる。

グラスへと勢いよく注がれたビールは、真っ白な大量の泡をグググッと力強く押し上げ、やがて金色の光を放つ。


まだまだ残暑厳しい八月下旬。
ポツポツと雨が降り出し、一気に上がる湿度。アスファルトから立ち上るほこりの匂い。



 そういえば台風が近づいていたっけ



高まってゆく不快指数を全身で感じつつ、終電で帰宅した私は、
熱いシャワーで一日の疲れを流し、
とにもかくにもビールビール!とささやかな宴を開いていたのだ。


いつしかビールはワインに変わり、少し深酒をし過ぎたようだ。



 明日も早い。寝なくては。



妻と、一歳になったばかりの息子を起こさぬよう、息をひそめてベッドにもぐりこむ。



こうして東京の片隅で、ごくごく普通のサラリーマンの一日は終わる。



 あまりに平凡なこの人生。
 このままでいいのだろうか。
 いや、俺が選んだのだ。
 今さら何の不満があろうか。
 こうして家族にも恵まれて俺は...俺は…幸せなのだ……



疲れた身体にアルコールが回るのはあまりに早く、私はあっという間に眠りに落ちた。






ーーーポツン ーーーピチャン

ーーーポツン ーーーピチャン



寝室に一定のリズムで鳴り響くその小さな音に、私はうっすらと目を開けた。


隣では妻と息子がスースーと幸せそうな寝息をたてている。
少し強くなってきた雨が、パチンパチンと窓を叩く音以外に特に変わった様子もない。


冷蔵庫からときおり聞こえる、ブーンという250Hzの唸り声を聞きながら、
明日のビール買っておかなくちゃと、ボンヤリした頭で思う。


あらためて耳をすますが、
先ほどまでかわいらしい音を奏でていたバンドは演奏をやめたのだろうか。
何も聞こえない。



 気のせいか。


 明日も早いのだ。



目を強くつぶる。
二度目の睡眠を早く手に入れなくては。



冷蔵庫が一際大きな唸り声を上げる。






ーーーパラッ!パラパラッ!

ーーーパラッ!パラパラッ!



何かが叩きつけられているかのようなその乾いた音で、私は再び目を覚ました。


それが雨漏りの音だと気付くのにそう時間はかからなかった。
見上げた窓から、おびただしいほどの水が噴き出していたのである。


噴き出した水は窓枠に沿って勢いよく下に落ちていくと、
サッシの細い隙間をうねうねと洪水の様に横に流れていく。
サッシにたまった水は、溢れる刹那、表面張力の差し出す手につかまり
一瞬その動きを止めるが、次から次へと落ちてくる新たな水の勢いに耐えきれず、
ブルッと震えたかと思うと、そこから小さな弧を描き、床へと叩きつけられていく。


老兵は去るのみなのだ。



生まれて三十年、
今まで雨漏りという経験のなかった私は大いに慌て、ベッドから飛び出した。


ビチャッという音とともに足裏に伝わる冷たい感覚。


それはクーラーを付けていても寝苦しい熱帯夜にも関わらず、
瞬く間に背中まで駆け上がった。
暗闇の中、正体のわからぬ何者かに全身を触られているかのような得も言われぬ恐怖。



 み、水っ…!水…!水ぅ!



私は情けない声を上げた。


普段とは違う若干うわずった声に、
深酒による喉の渇きで水を所望しているわけではないと妻も気付いたのであろう。



 …なに?


 み、み、水が!水がっ!


 !?


 あ、あ、雨が雨が窓から雨から窓に雨からっ!


 雨漏り!?


 そ、そうそうそれそれ!



そこからの妻の行動は早く、床に広がる水は、あっという間に雑巾に吸い込まれ、
どこから用意したのか、鈍い銀色の光を放つバケツの中へと放たれていった。


応急処置としてガムテープで塞がれた窓枠からは、
耳を近づければシュンシュンと、隙さえあれば染みこもうとする雨水の音はするものの、部屋に入ってくる気配はない。



 戦争は終わったのだ!



私は思わず叫びたい衝動に駆られたが、
そもそも妻が水を吸い取っている間に私がしていたことといえば、



 ヤバイよ!ヤバイよ!


 明日も仕事なのに!


 この時代に雨漏りなんて!
 
 大家に文句言わなきゃ!



などと愚痴をこぼすばかりで、たまにすることといえば、
妻から渡される雑巾をバケツの上でしぼり、再び妻に返すという、
戦いの最前線からはかけ離れたところにあり、



 そうだ!この前水没したiPod touchを雨漏りで壊れたことにしよう!



などと明後日の発言をし、


 
 それ詐欺罪だからね



と冷たい目で言われていたのである。


「男の威厳」などという、男が男であるために必要だと、
男だけが思っている儚い幻想は、この夜完全に砕け散り、
私は雨漏り以上の涙を流したのであった。




ところで、この悪夢のような事態が収拾し、再び眠りに就けたのは、
既に辺りは明るくなり始めた午前四時。


ここまでの大騒ぎの中、一切起きることなく、
ときおりグウグウとイビキまでかく息子には親ながら感心した。
大物になれよと切に願う。






と、これは今から6年前、2011年の夏の夜、
築40年の木造アパートで起きた大惨事でありました。


あれから小木曽家は、あ、今回のブログはMAの小木曽が担当します。


いつもお世話になっている皆様、
これからお世話になるかもしれない皆様、小木曽(おぎそ)です。
MAミキサーの小木曽(おぎそ)です。


よろしくお願い致します。



そう、あれから小木曽家は2度の引越しをし、今は平穏な日々を送っております。
あれだけの醜態を見せたにも関わらず、
いまだに一緒にいてくれる妻には感謝しても感謝しきれません。


今は良き思い出となっております。


まぁ、そもそもビールなんて言ってましたが、僕が本当に飲んでいたのは


『リキュール(発泡性)


通称、第三のビールでしたからね。

物は言いよう。



さて、前段が長くなりすぎまして途方に暮れております。
そう、これは前段だったのです。


のんびりお付き合いください。




歴史は繰り返すもので、去る2016年12月29日。
カラーズでは大事件が起きておりました。




 キャーーーーーッ!!!!



年末の、慌ただしくも新年への期待が溢れた、
そわそわした空気をつんざく悲鳴が川岸会館ビルに響いた。


はい、いきなり嘘です。
すみません。


カラーズのとある女子が

やべえす!やべえす!

と叫んでいました。



なんのことだか良くわからないまま、指差された方向に目をやると、こんなことに。




ええっ!


ということで良く調べてみると、マシンルームの天井から水がボタボタボタボタ…




ロビーの天井からも水が染み出してきています。




これはやべえす!


ということで行動力のあるスタッフが応急処置を施してくれました。



水がゴミ箱に落ちるようにしてくれています。
さすがです!


こういうときに冷静にこういうことができる男になりたいですね。




わかりにくいですが短時間でけっこう溜まっています。
水の勢いがすごい。



これまたわかりにくいですが、天井裏をのぞいて見たところ、上の方からポタポタと水が垂れてきておりました。




この日は雨が降っていたわけでもないので、
水道管が破裂したのか、
はたまた上のフロアで何かが起きているのか、と色々な憶測が飛び交いましたが、
とにかくマシンルームには高額な機材がたくさん並んでいるので気が気ではありません。


どうしたものかと思っていると、
気の利くスタッフがビルのセキュリティを守ってくれているSECOMさんに連絡を。



私はといえば



 アリャリャコリャリャ!


 年末に大変なことになったね!


 機材が壊れたことにして賠償金を!



などと6年前から全く成長のない様子。
徐々に相手にしてくれるスタッフもいなくなり、一人寂しく仕事に戻りました。


そうこうしているうちにSECOMさんが到着し、急いで上のフロア(別の会社です)へ。


結論から言いますと、
上のフロアで水が出しっ放しになっていて、
それが下の階にまで染み出してきていたとのこと。


水の出ていた蛇口を止めてもらうと、徐々に水の勢いは弱まっていきました。
乾くまでに時間はかかりましたが、マシンルームの機材に影響もなく事なきを得ました。



壁紙や床にもいろいろと汚れが出ていたのですが、先日修繕していただきました。


よかったよかった。




嫌なことは水に流してとはいいますが、
どうも私は水のトラブルに遭遇することが多いみたいなので、
あまり水辺には近づかないようにします。

水割りもやめてハイボールか、せめてハーフロックにします。


皆さまもお気をつけください。


さて水の勢い同様、私の話も尻つぼみになってまいりました。



老兵は去ります。




次回は、個人的に2016年カラーズブログで一番面白かったあの浪速っ子が登場!

お楽しみに!


それではまた!